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「……」

「……が」

「闇夜に白いのがー!!」

 ガッ

「ぐふっ、腹になんか……喰らって?
 ここは?

 !?????」

――な、何か居ますよ……なにか、とんでもないのが……それも複数。
   ここは祖父の家、それは間違いないですが、この気配。
   先のルーミアとは一桁か二桁違う……体が死んだ気になってて動かないとは。
   白丸黒丸も完全に固まってしまって、こんな気配に覚えは……12年前のアレしか思いつきませんが、まさか。

「あら、お目覚めのようね。
 お久し振りだわね、ぼうや」

――やはり。

「……ボウヤはよして下さい。
 あなたは変わりませんね、八雲 紫さん」

「あら、意外と落ち着いているわね」

「いえ、プレッシャーで体が言う事を利きません。
 これは諦観という奴ですね。
 それに、もう一つ……貴女レベルの存在が」

「ああ、私も驚いたけど。
 今の所、貴方を取って喰うつもりはないようだから、安心なさいな。
 それとそろそろ起きなさい」

 ひたりと冷えた掌が頬に添えられた。
 ふと気づく、目の前に真逆に微笑む懐かしくも恐ろしい微笑みが見えるという事は……あれ、天井ですね。後ろに見えるの。

 ひざまくら?

「す、すす、すいません!!」

 驚きに金縛りも解け、慌てて起き上がった。
 すると、その傍らに、見覚えのある顔がもう一つ。
 しかし、その気配は先程とはありえないほどに違う。
 
「ルーミア?」

 一応身構えるが、黒丸白丸が沈黙中の今、私に身を守る術は殆どない。
 一体何が原因で、こんな強大な存在感を、もしこれが本気だというなら、さっきの天井から落っこちたアレは……白だったな。

「おい、何を考えている。
 全く、私も焼きが回ってしまった……こんな人の子に不覚を取るとは」

 睨まれただけで、周囲の温度が下がったようだ。
 背筋に冷たいものが走り、身が固まる。

「二度もね……偶然もあったけれども」

 紫さんがクスクスと笑いながら余計な補足をしてくれた。
 ギシリと音を立てて、さらに室内の温度が下がった気がする。

「とはいえ、弾幕ごっこにあらず、こちらで人を喰う者として人に退治された。
 ならばその者には褒賞が与えられる」

――なんですか、それは? 昔話でもあるまいに。

「ルールなのよ。
 幻想郷ですら忘れ去られたルール。
 鬼や悪魔を退治した者には、富や名誉、権力や宝が与えられ、
 末永く幸せに暮らしましたとさ。 で締められる昔話。
 そういう事よ。
 ルーミアは、幻想郷に入るとき、新しいルールを課せられたの。
 力と存在を封じ、ただの人喰いとして在るという事。
 対価も代償もなく、そういう者として在る事を選んだのよ」

「ただの人喰い?
 そこはスルーなんですね」

「妖怪は人を襲うもの。
 人は妖怪を退治するもの。
 人喰いも存在できるからこそ、幻想郷なのよ」

「貴女は……人を襲いますか?」

「ないしょ。
 女には謎が付き物よ。
 話を戻すけど、それは幻想郷でのルール。
 こちらでは適用されない。
 だから、元のルールが適用される。
 さあ、貴方の望みをお言いなさい。
 とはいっても、今の彼女の状態ではね。
 退治か、力か、後はお嫁さんくらいでしょうね」

「お嫁さん……白い」

「いちいち思い出すなぁ!!」

 ぐはぁ

「なら、力を。
 恐ろしいモノを恐ろしいと認めて、そして立ち向かえるように」

「良かろう。
 お前が暗闇の畏れを知る限り、
 お前が夜闇の穏やかさに感謝する限り、
 闇はお前と共に在る」

 言葉と共に、何かがずるりと入り込んできて、何かが書き換えられたような気がした。
 そして、ルーミアはくたりと倒れこんで、そのまま眠りについてしまった。

「あの、何か変わったんでしょうか?」

「そうね、護法を呼んで御覧なさい」

「白丸、黒丸って、なんだ!?」

「あらあら、これはまた」

 二人してあんぐりするほど、蛇たちはでかくなっていた。
 12年前、50cm程だったのが、最近では2m程に。
 そして、今では……それこそ部屋の中にゴロンと丸太が転がっているような風情になっている。

「アナコンダ?」

 私が呆れていると、紫さんはどこかしらから筆を取り出し、小さな和紙にすらすらと何事かを記す。
 その数二枚。

「命名、黒丸改め黒陽、白丸改め影月」

 ブラック・サ○に、シャ○ー・ムーンですか?

「それなんていう仮面ライダー」

「気に入らない?」

「いや、格好良いですが……」

「名前は大事よ。
 名は体を現すというでしょう。
 本蛇たちも気に入ってるみたいだし」

 ウネウネと身を躍らせる二匹の蛇、あれって喜んでるんですか?

「とにかくこれでルーミアの用事は終り。 次は私の用件」

 思わず居住まいを正した。
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by katuragi_k | 2008-04-12 11:12 | SSもどき

幻想入り2A

 時間は少し戻る。
 森の出現地点上空。
 年若い女が一人、宙に背を預け、たゆたっていた。

「つまらない……面倒ねぇ」

 ブツブツとぼやきながら月を眺め、濁り臭う大気に鼻を鳴らす。

「また、濁ってる。
 こんな田舎でこれじゃ、外もそろそろ終わりかしらね。
 案外、最近の外来人の紛れ込みも、この世界から逃げ出そうとする人の本能。
 沈む船から逃げ出す鼠ってやつかしら」

 傘を一振り、宙を割る。

「どう思う? 藍」

 その裂け目から姿を現した女が、その問いにふむと目を瞑り、しばらくして目を開き答えた。

「面白い説です……が、むしろ人がというよりは、幻想郷の存在自体が、
 崩れかけのバランスを取る為に、外来人を招きいれていると私は考えます」

 大真面目に答える連れに対して「硬いわねぇ」と呟く女。
 人には不可知の知性と狂気を気だるさに溺れさせる、スキマ妖怪こと『八雲 紫』
 そして、その傍らに控えるのが、その式たる『八雲 藍』

「そうね、こちらが崩れてあちらが無傷、
 という訳にもいかないものねぇ。
 ああ、本当にめんどう」

 私って不幸よねぇ。 とか呟きながら、紫が下界を見渡す。
 そして、ふと森の一角に気を止めた。

「紫様? 何か?」

 紫の様子に藍が心配げに声をかけた。
 心配の8割はなかなか仕事が終わらない事について。

「紫様?」

 森の一角に目を止めたまま動かない紫に、藍の紫への心配が4割程度にまで膨らんだ頃、再びの問い。
 そのとき、紫の可憐な口元が、嫌らしくニターリと曲線を描いた。
 藍は、「橙、今日は遅くなりそうだ」と呟き、紫への心配を、紫に遊ばれる誰かへの心配に差し替えた。
 紫はそんな式の思いを知ってか知らずか、ニヤケ面にカリスマを乗せなおすと、何かを懐かしむように目を細めた。

「十年ひとむかし。
 私にとってはあっという間の時間。
 だけど、人にとっては結構な時間なのね」

 藍にとって、紫は量りかねるのが常。
 その言葉の意味はあまり気に留めず、主の見る先を眺めてみた。

「ルーミア? あんな輩まで、こちらに?」

 そして藍の戸惑いは、それと戦う人間の姿を認めて、さらに加速した。
 それは弾幕というには泥臭く稚拙、対等な勝負ではなく、食うものと逃げるものの争い。
 それでも、あの姿の者に対して、外の人間が対する反応ではなかった。
 外の人間なら、ルーミアのあの外見に騙され、何もできず捕って喰われるのが関の山。
 それを、敵と認識し、戦うとは。

「あの人間、ルーミアを……いや、人外の存在を知っている?」

 眺めるうち、人間もか弱くとも人外の力を持ち、それを振るう事に気づき、先の主の言葉を振り返る。

「紫様は……あの人間を?」

 紫は、藍の言葉に「やっとそこまで辿り着いた?」と意地悪げな微笑を浮かべた。

「ええ、よく知っているわ。
 今の気持ち、これを貴女にどう伝えれば良いでしょうね。
 そう、戯れに散らした蒲公英の種が、忘れた頃一面に花を咲かせていた……そんな感じかしら?」

 そうこうしている内、下界では決着が付きつつあった。



   「記憶をうしなぇええええ!!!」

   「ちぃっ」


 そして拳銃の暴発。
 そのイレギュラーに、ルーミアが集めに集めた闇の塊が制御を失い暴発。
 そしてダブルノックダウン。

「……締まらないわねえ」
「……」

 なんとも締まらない終わり方に呆れる二人。
 そして紫は藍へ向き直り、綻ぶような笑顔をひとつ。
 対する藍は溜息ひとつ。

「藍、お願いがあるの」

 紫は手を胸の前でぽんと合わせて、小首をこくり。
 藍はその主の様子に、止めるだけ無駄なのだろうとあきらめた様子。

「判りました……私で出来るところまでは進めておきます。
 ですが、夜明けまではそう時間はありません。
 お急ぎを」
「出来の良い式を持てて私は幸せよ」

 紫は破顔一笑、宙を裂いて、隙間にするりと飛び込んだ。
 藍は、あの笑顔はずるいと思いつつ、境界の区切りを済ませる為、飛び立った。
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by katuragi_k | 2008-04-06 21:45 | SSもどき

幻想入り1B

戦闘

 彼女の手から、中央部に燐光を灯した闇が撒き散らされた。
 私がその目で追える程度のスピードに対して、観察しようと色気を出した瞬間、左手が勝手に動き、闇の通る軌道を薙いだ。

「白丸、黒丸? 一体!?」

 勝手に動いた左手。
 私が蛇達に何事かあったのかと思うまもなく、ジャッという、なんともいえない音がし、闇が弾けた。
 その音を喩えるなら、工業用サンドブラストの作動音だろうか。
 どうやら、見える以上に闇の塊の大きさは大きいようだった。
 私が中央部の燐光につられて避けたつもりになっていたら、夜に紛れたその外周に削られていた。
 ちなみに弾いた塊の行く先では、立木の幹に荒くやすられたような擦過痕が残っているのが見えた。

「け、結構しゃれにならない威力ですね。
 どういう理屈で、闇を固めると物理的な威力のある粒子になるんだか。
 えーーい、忌々しい」

 思わず、ボヤキが漏れた。
 その間も辺りでジャリジャリガシガシと破砕音が続く。
 私は近くしか把握できていないが、彼女の攻撃範囲は相当広いらしい。

「まったく、どれだけの数の弾を、
 弾数制限とか、一球入魂とか言う言葉は知りませんかっ?」

 私は、彼女が掴みかかってくる所に、けん制を撃ち込んで、護符叩き込んで泣かせるつもりでしたが、彼女に飛び道具があるとか、こちらよりも射程が長いとかは想定外ですね。

「ねえ、その鉄砲は飾りなの?」

 私のボヤキを見通したかのようにそんな事を仰るルーミア嬢。

「ぐっ……痛い所を突きますね。
 撃ちたいのは山々ですが……」


 私の持っている拳銃は、出来のいいモデルガンを改造した似非拳銃。
 実包は打てず、燃焼ガスで溶かした流体を、ガスの勢いで飛ばすもの。
 飛ばす物のレシピは塩、銀、丹、沙……俗に言う魔よけ。
 射程は5-6メートルで飛散範囲が2メートルほど。
 半実体化した餓鬼等には覿面に効果が出ますが……。
 彼女ほどの実体を持つ相手に利くか……痛みには弱いようですから、けん制にはなると思っていつも持っていたのですが。

 近いのは弾き、間に合うのは避けつつ、私は少しずつ明かりのある所へ移動する。
 彼女が闇を武器化しているせいか、いつの間にか、空には月が明るさを取り戻していた。

「逃げるばかりだと弾幕ごっこにならないわ」

 ゆっくりと散歩でもするように、歩きながら私の後を追う彼女。

「ごっこなんていう可愛いものですかこれが!!」

 私は転げるように走るものの、余計な動きのせいで距離を稼げていない。
 それでも何とか、祖父の家の近くまで逃げ延び、家の影に入って彼女を待ち伏せた。
 足音を頼りにタイミングを計る……。

「?」

 足音がしない。
 途端、背中に悪寒が走った。
 前に飛び込む様に跳ねて、前転して受身。
 振り返った先に闇が打ち込まれていた。

「上?」

 唖然とする私に声が振ってきた。

「……残念」

 とは言いつつも、私が避けたことで楽しみが続くとでも言わんばかりの笑みが、見下ろす彼女の口元に浮かんでいた。

「冗談……」

 彼女は飛んでいた。

「さあ、早く泣かせてみて」
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by katuragi_k | 2008-04-02 21:02 | SSもどき