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WIZな世界

「うわ、トロボー城だって……」
「バルタック・トレーディングポストとか……」

 なんだか疲れた声で街の案内板を見上げる男女が居た。
 一人は二十になるかならないかの若い男で、あまり特徴の無いのが特徴といえるような中肉中背。 一人は24-5の女、白い肌、黒い髪と瞳、真っ赤な唇に肉感的な体と絵にかいたような美女。 ただし、目元口元のパーツが大味で、そのバランスが少し微妙に愛嬌を加えていて、適当にくくった肩までの髪とあわせて、いたずら好きなチェシャ猫のような印象を与えている。
 男の名は『祭 司』
 女の名は『アリステア・クロウリー』
 二人は次元世界を暇つぶしに渡り歩いている旅人である。

「アリスねえ、ここでなにやろうっての?」

 司がじっとり曇って陰気な町を見渡し、相棒にして教師、そして旅の水先案内人で恋人は……うーんというアリステアに問いかけた。

「ふむん、司に手っ取り早く魔法でも覚えて貰おうとね」

 アッサリとした返答に、司は早速帰りたくなった。

「いや、無理だって、俺に魔法なんか使えないって」
「いやいや、司の世界の人間は押しなべて魔法使いやらへの素養は高い」
「はあ? 何、その超理論、初耳です」

 アリステアの思いがけない言葉に司の目が点になった。 司の世界ではゲーム・漫画・アニメ・映画の多岐に渡って魔法というものは存在してるが、あくまでも有ったらいいなの妄想でしかなく、それらを実際にふるえる存在は居ないのだ。 もし、素養があるのなら、一人や二人そういう存在が居てもいいのではないだろうか? まさか、「まりっく」やら「せろ」が?

「前にも言ったけど、司の世界で魔力に類するものは存在しない。
 それにも拘らず、魔法という物のイメージがあれほどハッキリと存在しているのは異常だよ。
 魔力の扱いで一番重要なのはイメージ。
 無いものをあるように想像する作業。
 それが司の世界ではテンプレートのように用意されている。
 それも目に見える形で……例えば治癒の魔術で光に包まれる、天使が現れて羽を舞わせながら傷を治す、どれもかなり有効なイメージだ。
 後は魔力を準備して、魔力の類を感じる感覚の訓練をすれば司も魔法使いになれる」

 アリステアの解説は、なんとも説得力のあるのか無いのか良く判らないものだったが、司には妙に魅力的なものだった。

「それじゃあ、何でこんな世界?
 もう少し判りやすい世界でも良かったんじゃ?」
「いや、下手にグラフィックの付いてるようなゲームに似た世界だと、司のイメージに影響が出る。
 ここなら下手なイメージは無いから、司の持っている自然なイメージが表に出るだろう」

 なるほど、文字情報だけで想像力を働かせろという事かと、司は無理やり納得した。

「さて、今の持ち金で買えるスクロールと魔法薬は片っ端から買おう!!」
「装備は?」
「重い鎧を着て戦いたい?」
「無理があるか……」
「ゲームみたいに、ただ着るだけでは防御力上がらないから。
 逆に地下に潜らないと戦闘用の魔法が使えないってゲームみたいな制約も無いわけだけど。
 まあ、いざという事になったら、ボクが守る。
 司に何かなんておこさせやしない」
「それもちょっと情けないけどね。
 ってことは、その辺で魔法使う?」
「その辺りの空き地に人払いをかければ良いさ」

 司は「なるほど」と、頷いてイカツイ武器が並ぶ店の奥に足を進めた。

「ふむ、さすがにゲームの初期状態みたいなことは無いね。
 色々と並んでいるね」
「あ、HALITOのスクロール見っけ。
 KATINOに……MOGREFって何の呪文だっけ?」
「身体強化で防御アップだったと……ごめん、自信が無い」
「DIOS、DIALKO、LATUMOFISの薬発見」
「司、その辺の不確定コーナーに近寄らないように」
「えっ? っておい、ワゴンセールで未鑑定品並べるなよ、危ないなあ」
「多分、高位のビショップってのが、そう居ないんだよ。
 それにゲームみたく店なら何でも鑑定できるって訳でもないんだろう。
 だから、コストの加減で怪しい物はそのまま売ってるんだよ」
「掘り出し物とかあるかな?」
「まあ、エセルなら鑑定出来るんじゃないかな?」
「ならさ、鑑定してお金稼げるかな?」
「なるほど、やってみようか、
 でもその前に掘り出し物はこちらで買い占めよう」

「……ロングソード+1、-1、+1、フレームタングってこれは銘が入っていますが?
 ……ブレストプレート-1、-2、-1、-1呪われすぎです。
 ……クラブ+2、+3、微妙過ぎます」
「エセルぶつぶつ言わない」
「単純作業は好きではありません」
「エセルさん、悪いね……また犬正宗買ってくるから」
「判りました、司の為にもう少しがんばりましょう」
「蔑ろにされている気がする」

「掘り出し物です。
 RING OF HEALINGとRING OF DEATHが混ざっていました。
 これらは魔力の誘導体に使えますが、どうしますか?」
「置いとこう。
 呪いの武器を売り飛ばせば、とりあえず買い物には困らないから」
「呪いの武器が売れるんだ」
「とりあえず、呪われてる奴も魔法がかかってるから、使い様で色々とね。
 技術さえあれば、それなりに買う連中も居る」
「ボクでも出来なくは無いけどね、魔力を引き出す手段と工房をどうにかしないとね」
「ああ、うちの世界って魔力が無いんだっけ」
by katuragi_k | 2008-01-28 22:58 | SSもどき

1章 前編

(1)

―――じんぐるべーじんぐるべー♪

 『クリスマス』 人によってその日が持つ意味は大きく変わる。 主の誕生に感謝し最寄の教会でミサに出席するであろう信心深い人々。 ケーキを土産に家族の笑顔を思い浮かべながら家路を急ぐ父親。 待ち合わせの相手が辺りをドキドキしながら見回している若者。 サンタクロースはもう信じていなくても、プレゼントに心躍らせる子供たち。 相手が居なくてやけになって男同士でカラオケで熱唱する連中。 クリスマス直前に色々とあって一人ぽつんとケーキを前にコタツで暗くなる女性達。 あとはクリスマス自体が無いかのように死の行進を続ける者たちとか。 そんな中に埋もれる一般的モテナイ君として、司はケーキを売る側に回って、カップルでケーキを買いに来る連中に、満面の笑顔の裏で「くっくっく、今はこの時を楽しむがいい。 いつか働くアリさんがキリギリスを笑うときが来るのだから」等という、微妙すぎる呪詛を吐きながら、今年最後のバイトをトナカイの着ぐるみで過ごしていた。

「お買い上げありがとうございましたー……って、気がついたら、もう19時かよ。
 それじゃあ店長、そろそろ上がりますよ」

 バイトの時間が過ぎようとするのを見て、司は情け容赦なくその言葉を吐いた。

「ちょ、司君? この状況で本当に上がる気?」
「ひどっ、人でなしが居るわ!! あ、いえ、こっちのことで、お買い上げありがとうございましたー♪」
「鬼!?  あ、こちらサービスのシャンパンになります♪」

 ケーキに群がる客をさばきながら、満面の笑顔で非難の声をあげる店長とパティシェのお姉さん方。 一人助かろうとする司に対して「貴様それでも人間か!!」とばかりの形相を笑顔の合間に浮かべて睨んでくる。 確かに、まだまだ並んでいる客の行列は先が見えず、売るべき商品のケーキはうずたかく積まれ、恐らくは店の人気からして22時くらいまでは平気でこの状態が続くだろう。

「ふ、美人のお姉さん達の忙しそうな姿を見れば、男なら何とかしてあげたいところなんですが……。
 昨日、今日と売り場の設営で働きっぱなしです。 もう勘弁してください。
 だいたい、「二人っきりでいいことしようか」とかな甘い言葉でケーキの仕込みと売り場の設営やらせる店長の方が鬼でしょう。
 しかも、居ないと思ったら店長は店の控え室で寝ていたし……襲ってやろうかとドンだけ」

 「おそってくれてもよかったのにー♪」とかの給う店長のミキに、司が顔に疲れた薄笑いを浮かべながら赤いトナカイの鼻をもぎとった。

「大丈夫です、ミキさん(店長)は出来る子です。
 美穂さん(パティシェ1号)、人間駄目だと思ってからが本当の勝負です。
 華梨さん(同じく2号)、人間ってなかなか壊れない者ですよ。
 だから……頑張れ♪」

 最後の「頑張れ♪」に呆気に取られる店長とお姉さん方を尻目に、司はバックヤードに繋がる戸口へ向かった。

「はっ!! 返せー戻せー!!」
「クリスマスに予定なんか無いくせにー」
「お姉さんよりコタツの方がいいってのかー!!」

 正気に返ったお姉さん方の放つ言葉が司の背中にグサグサと刺さった。
 司は足を止めて振り返る。

「ええい、クリスマスに予定があってもケーキ喰い放題なバイトの打ち上げの為にぶっちする人に言われたくないわ!!
 イケメン天才外科医の現ボーイフレンドが俺なんかに泣きながら相談しに来てたぞ!!
 それに……お姉さん方とは別になんでもないわっ!!
 大体コタツとみかんは俺を裏切らないからな!!」
「「「それはどうかと思うな」」」
「うるさいわ!!」

 色々と黒いものが吹き出てきた内幕の晒しあいにちょっと引くお客と、ハッとしてにこやかに取り繕う店員。 司は凍りついた時間の中を、光の速さで店の裏に引っ込んだ。

「あーやばかった。
 しっかし、女性に大人気のこの店のバイトに入れば、彼女とは言わずとも、女の子の友達くらいはすぐに出来ると思ってたんだけどなあ。
 結局、クリスマスまで何のイベントも無く終わってしまったじゃないか。
 無駄に女性の内側知ったのと変な度胸が付いただけじゃねーか」

 司はトナカイの着ぐるみを脱ぎながら一人ごちる。 一年前のクリスマスにこの店が出来て、すぐに司はバイトの申し込みをした。 狙いは美人の店長、可愛い同僚、甘味に惹かれる女性客。 そんな職場を夢見ながら、同じような事を考えた連中を押しのけ、35倍という高倍率の難関を潜り抜け、見事バイトの座を勝ち取ったのだ。 だが、司は女性達に夢を見すぎていた。 甘味の世界とは女達の戦場、男の立ち入る隙など無い鉄火場だったのだった。 ぶっちゃけ、店長は美人だが甘味の鬼、パティシェのお姉さん方は天才とうたわれた店長の限定ケーキという名の宝を試作品の味見という名の裏技で味わおうとした修羅、客もタイムサービスやバイキングで司の女性への幻想を一日目から吹き飛ばしてくれた一騎当千のソルジャー達だった。 それでも一人の男手として司は重宝されているのか扱いは悪くない。 その上、店長も皆もなつっこいので無意識のスキンシップで司をドキドキさせてくれたりもする。 更にバイト代も結構なものだったので、司は一年近くこのバイトを続けているのだが……。

「さて、泊まり分の時給の一部を現物支給とかって何をくれたのか……な?
 ちょ、8号のイチゴショートクリスマスエディション1ホールってミキさんなに考えてんの!?
 食べきれるわけ無いでしょ!!」

(*8号は直径24cm、割と一般的? でもホール(丸)で見るとかなりデカイ。 しかし、ケーキ屋バイトのリアル友人の話だと、それを大人買いして一人で食べきる猛者も普通に居るらしい……女性で……いったい何㌔㌍)

 ちなみに司が働いている店のケーキは店長のミキさんのこだわりで、時間を持たせる事をあんまり考えていない。 よって足が速い。 冷蔵庫に入れておいても今日明日くらいしか持たないだろう。

「自分達の食べる量と速度を基準にするのやめて欲しいなあ。
 ああ、誰か一緒に食べてくれる人でも……いりゃあなあ」

 とはいえ司に無い袖は触れぬ。
 その辺を深く考えると寂しくなりそうだったので、司は頭を振り思考を切り替えた。
 取りあえずは快適なコタツライフの為にミカンを買い、ジュースとノンアルコールのシャンパンを買い、晩飯を何にしようかと迷い、冷蔵庫の中身を思い出している頃には「あいらいくらいふ、らいふらいくみー♪」とかな鼻歌が出るくらいに気分は回復していた。 司はさらに適当な歌を口ずさみながら、商店街の雑踏から平屋の文化住宅の並ぶ裏手に入った。 この辺は機械が入れにくい為か開発が進んで居らず、低い建物が並んでいる。 ぶっちゃけると建物が古くて汚いので家賃が驚くほどに安い。 住む所にこだわりの無い司には十分というか、ありがたかった。 司にとっては風が入ってこなくてガス水道電気ネット環境があれば問題ない(何気に光だし)。 おまけに風呂までついてると来た日には、文句を言ったら罰が当たると司は思っている。

「こんばんは、今年ももう終わりだねー」
「今年もなんかあっという間でしたねー」

 帰り道で近所のおばちゃんが大荷物で鼻歌の司を見かけて声をかけてきた。 引っかかると話が長いが、バイト代の入る前の金欠で苦しい時等に、なんやかやとおすそ分けを頂くので司は頭が上がらない。 それに主婦暦40うん年の腕は、そんじょそこらの総菜屋には真似の出来ないうまさで、食べているうちに司の舌が肥えてしまい、司の自炊レベルが上がった一因でもある。

「ん?」

 見ると、司の家の前で黒い影が……誰かが座り込んでいた。
 
「酔っ払いか? 珍しいな」

 近所付き合いが深いこの辺りで酔っ払いは珍しかった。 その辺りに酔っ払いが居ても、大体どこの誰だかすぐに判るため、誰それとなく身内に連絡が飛んで、すぐに知り合いが引き取りに来るからだ。 司もこの辺りの飲兵衛の顔は把握している。 だがなんとなく、何時もとは様子が違っているようだった。

「あの、大丈夫ですか?」

 流石に家の前に座りこまれていては放ってもおけず、司は声をかけつつ近寄ってみる。 薄暗い明かりがやっとこ映し出した姿の正体は、ブロック塀に背を凭せ掛けて座り込んでいるスーツ姿の女性だった。 肩くらいまでの黒髪を後ろでぞんざいに括った髪型で、顎の線がシャープな凛々しい顔立ちをしている。 とはいえ、やや大きめの目元口元のパーツが角をとってキツイ印象は無く、コケティッシュに見せている。 かといってボーイッシュな風でもなく、真っ赤に濡れた唇と長いまつげ、それ以上にスーツがそのプロポーションの良さを浮き上がらせていた。 まじまじと見てしまった司がハッとして思わず目を伏せると、女性の傍らに小さな子犬が心配げに付き添っているのに気づいた。 司はもう一度、「大丈夫ですか?」と声をかけてみると、女性がこちらに顔を向けて一言ポツリと漏らした。

「寒いんだ」
「ちょっ!!」

 そのままグッタリと崩れ落ちる女性を慌てて抱えると、司はその体の冷たさに驚く。 どうしようと司が戸惑っていると、懇願するような子犬の視線とぶつかった。

「ええい、くそっ!!」

 司は一旦女性をそっとブロック塀に持たせかけると荷物を投げ置き、部屋の暖房器具のスイッチを片っ端からつけて、玄関ドアを開けたままに女性の元に戻った。 女性に薄手のブランケットをかけると、司はお姫様抱っこの要領で女性を抱き上げようとした。

「よっこいっ……てちょっと!!」

 しかし、司が何とか女性を浮かせた時、その当の女性が上半身を起こして司にしがみ付いてきた。 自然、重心が後ろに行き、司は押し倒された状態で舗装路に腰から落ちた。 背筋に一瞬の衝撃が走ったあと、腰から下の感覚が飛んだ。 数秒そんな状態で痺れたようになっていたが、唐突に痛みが復活して今度はそれで動けなくなっていた。 女性は相変わらず司の首元に両の手でしがみついている。 司が支えていた女性の下半身は、司が自分の上体を支えるのに両手を地面に付いているため投げ出されている。 男女二人して道路に倒れているのはどういうことなんだろうと、司は逃避しかけの思考をまとめなおした。

「あの、大丈夫ですか?」

 司があらためて声をかけると、寒さでか身を震わせている女性が更に力を込めてしがみ付いてきた。 すでに、胸が当たってラッキーとかな次元ではなく、司が身の危険を感じるくらいの異常さだった。 とにかく、女性の体の冷たさと震えは危険だと思われたし、第一このままの状態だと司自身も風邪どころではなくなりそうだった。 

「このままここに居ても、どうにもならないし、うちに来ませんか?
 少なくとも温まりますよ」

 返事は無かったが、女性のしがみ付く力が少し緩んだ。 司は体を起こし、女性を立たせようとしたが、少し体が離れそうになると、女性は離れたら死ぬとでも言うような勢いで、再び物凄い力でしがみ付いてきた。 司はもう一度声をかけたが、今度は力を緩めてくれず、しがみ付かれたままだった。

「あのう、身動き取れないです。
 ちょっと腕を緩めて「……寒いのは嫌、一人は嫌」……」

 


 アリステア=クロウリーは、










ハロゲンヒーターを脇に置いた布団に女性を寝かせた。 司は一旦玄関に戻ると、行儀よく待っていた子犬の足を雑巾でぬぐって部屋に迎え入れた。 子犬は部屋に入ると司へ頭をヒョイと下げてから、トトトトっと女性の元へ走っていくと傍らにちょこんと座った。

「賢いな」

 驚きながら、司は冷蔵庫から卵とミルクを出して鍋で即席ミルクセーキを作る。 マグカップと小皿に入れて小皿は子犬の前に置いた。 子犬はじっとこちらを見つめてから小皿に口をつけた。 それを見てから司が女性に声をかける。 女性は微かに鼻をひくつかせると、目をゆっくりと開き、戸惑いながらも司からマグカップを受け取ると、ミルクセーキを啜った。 しばらくかけて、マグカップを飲み干した女性は、司をじっと見つめると「君には迷惑をかけたようだ……すまないが、もう一杯いただけないだろうか?」と、ミルクセーキのおかわりを求め、マグカップを司に返した。 司が鍋からミルクセーキを注ぎなおして女性に渡すと、女性は「ボクの名前はアリステア、アリステア・クロウリーという」 そう自分の名前を司に告げた。















「温まるよ」
「こんなもんでよければ、まだありますから」

 司が注いだミルクセーキのおかわりをすすりながら、アリステアは呟いた。 少し血色の戻った様子に司は安心し、アリステアをコタツに誘うと鍋に残ったミルクセーキを保温ポットに注いでコタツに置き、ついでにケーキを出してアリステアに食べられるかと聞いた。

「いや、せっかくのケーキだろう?」
「いえ、一人じゃ食べ切れませんし」

 それならというアリステアに一片60度で六つに切り分けたケーキを紙皿に載せてコタツへ乗せた。 大人買いでなければ見られない角度である。 アリステアの驚いた顔に司はまずかったかと不安になったが、アリステアの「あははゴーカイだね。 素晴らしいよ」という言葉にほっと胸をなでおろした。

「まあ、商売抜きで趣味に走った作品らしいですから。
 痛むのも早いんで、片付けるのを手伝っていただけると助かります」

 「だから気にしないでください」という司にアリステアは微笑を向け、「キミは良い人だね。 感謝してもしきれない」と頭を下げた。

「いや、そんなことは、みんな助け合わないとですし、美人の女性は大事にしないとですし」

 突然の事に司が両手をあわあわと振りながら、頭を上げてくださいと言うと、アリステアは「じゃあ、お言葉に甘えようか」とケーキをつつきだした。

「これは……大したものだね」
「それは間違いなく……なんか、ちょっと食べてない間に進化してるし」

 アリステアと司、二人してケーキをつつきつつ、その味に感心しきり。 さすがに天才パティシェと呼ばれるだけの事はある出来だった……司的には性格はともかくと但し書きが付くが。 初めて食べるアリステアも、甘いものが得意ともいえないので久しぶりに食べる司も、時間を忘れて60度一切れづつを片付けた。

「しかし、まだ今の倍残っている……」

 司が絶望的な目で3分の2を残すケーキを眺めていると、アリステアが恥ずかしげにうつむき加減で「もう一つ位なら大丈夫だけど……」と呟いた。 司は、年上の美女の子供っぽい様子にドキドキしながら、ケーキを切り分け、皿へ乗せた。

「あ、シャンパン……ノンアルコールですけど、飲みます?」
「ああ、いただくよ」

 グラスを二つとシャンパンを持って司がコタツに戻る。 ついでにみかんも忘れない。 TVをつけると、クリスマス定番の曲を延々と流す番組をやっていた。 それを聞き流しつつ、二人で乾杯。 この辺りで、司は一杯一杯になっていた。

――ちょちょちょ、いったい俺どうなってんの? これなんてえr……いやいや、まさかこんなクリスマスが俺のところにやってくるなんて、サンタさんありがとう!!

「はふー」

 オーバーロード気味の頭の中を吐き出すような深い溜息が、アリステアに司へ視線を向けさせた。 その視線に妄想をストップさせた司がアリステアへ視線を返す。

「あ、何ですか? アリステアさん」
「いや、何か溜息をついてたから、どうしたのかと思ってね。
 やはり、ボクは迷惑になっていないかい?」
「いえいえいえいえ、一人のさびしいクリスマスだったはずなのに、こんな美人のお姉さんと居られるなんてなんてサンタさんのプレゼントだろうかとか考えて……じゃなくて、えーと。
 そう、俺じゃなくてボクの自己紹介してないなとか、ははははははは」

 キョトンとしたアリステアに司がバタバタと手を振り、話を無理やり軌道修正した。

「えー、俺じゃなくて僕は祭 司(まつり つかさ)といいます。
 高校2年で一人暮らし、彼女居ない暦は=年齢ってとこですが深く聞かないでください」
「男の子は俺でもおかしくないよ。 ボクもこんなだしね」

 ふふふと微笑むアリステアに司は顔に血を昇らせ、
by katuragi_k | 2008-01-27 18:44

1章 後編

「温まるよ」
「こんなもんでよければ、まだありますから」

 司が注いだミルクセーキのおかわりをすすりながら、アリステアは呟いた。 少し血色の戻った様子に司は安心し、アリステアをコタツに誘うと鍋に残ったミルクセーキを保温ポットに注いでコタツに置き、ついでにケーキを出してアリステアに食べられるかと聞いた。

「いや、せっかくのケーキだろう?」
「いえ、一人じゃ食べ切れませんし」

 それならというアリステアに一片60度で六つに切り分けたケーキを紙皿に載せてコタツへ乗せた。 大人買いでなければ見られない角度である。 アリステアの驚いた顔に司はまずかったかと不安になったが、アリステアの「あははゴーカイだね。 素晴らしいよ」という言葉にほっと胸をなでおろした。

「まあ、商売抜きで趣味に走った作品らしいですから。
 痛むのも早いんで、片付けるのを手伝っていただけると助かります」

 「だから気にしないでください」という司にアリステアは微笑を向け、「キミは良い人だね。 感謝してもしきれない」と頭を下げた。

「いや、そんなことは、みんな助け合わないとですし、美人の女性は大事にしないとですし」

 突然の事に司が両手をあわあわと振りながら、頭を上げてくださいと言うと、アリステアは「じゃあ、お言葉に甘えようか」とケーキをつつきだした。

「これは……大したものだね」
「それは間違いなく……なんか、ちょっと食べてない間に進化してるし」

 アリステアと司、二人してケーキをつつきつつ、その味に感心しきり。 さすがに天才パティシェと呼ばれるだけの事はある出来だった……司的には性格はともかくと但し書きが付くが。 初めて食べるアリステアも、甘いものが得意ともいえないので久しぶりに食べる司も、時間を忘れて60度一切れづつを片付けた。

「しかし、まだ今の倍残っている……」

 司が絶望的な目で3分の2を残すケーキを眺めていると、アリステアが恥ずかしげにうつむき加減で「もう一つ位なら大丈夫だけど……」と呟いた。 司は、年上の美女の子供っぽい様子にドキドキしながら、ケーキを切り分け、皿へ乗せた。

「あ、シャンパン……ノンアルコールですけど、飲みます?」
「ああ、いただくよ」

 グラスを二つとシャンパンを持って司がコタツに戻る。 ついでにみかんも忘れない。 TVをつけると、クリスマス定番の曲を延々と流す番組をやっていた。 それを聞き流しつつ、二人で乾杯。 この辺りで、司は一杯一杯になっていた。

――ちょちょちょ、いったい俺どうなってんの? これなんてえr……いやいや、まさかこんなクリスマスが俺のところにやってくるなんて、サンタさんありがとう!!

「はふー」

 オーバーロード気味の頭の中を吐き出すような深い溜息が、アリステアに司へ視線を向けさせた。 その視線に妄想をストップさせた司がアリステアへ視線を返す。

「あ、何ですか? アリステアさん」
「いや、何か溜息をついてたから、どうしたのかと思ってね。
 やはり、ボクは迷惑になっていないかい?」
「いえいえいえいえ、一人のさびしいクリスマスだったはずなのに、こんな美人のお姉さんと居られるなんてなんてサンタさんのプレゼントだろうかとか考えて……じゃなくて、えーと。
 そう、俺じゃなくてボクの自己紹介してないなとか、ははははははは」

 キョトンとしたアリステアに司がバタバタと手を振り、話を無理やり軌道修正した。

「えー、俺じゃなくて僕は祭 司(まつり つかさ)といいます。
 高校2年で一人暮らし、彼女居ない暦は=年齢ってとこですが深く聞かないでください」
「男の子は俺でもおかしくないよ。 ボクもこんなだしね」

 ふふふと微笑むアリステアに司は顔に血を昇らせ、
by katuragi_k | 2008-01-27 18:42

商売やるとか

「とは言ってもねえ、元手は有るけど売れそうな物もって来てないしね」
「元々小銭でお釣りが貰えれば良かったからなあ……。
 とりあえずこちらの有利ってのは、四次元ポケットもどきで身一つで大量の品物こっそり運べるって事と、魔術というか、クレス貨を使った錬金で凄い金属作れるとかくらいかな?」
「それだ!!」

 身を乗り出してくるアリステアにビビル司。

「普通に魔剣作ると後々面倒くさいから、既製品使って何回かだけ、すごく切れるエセ魔剣作ろう。 簡単に作れるし、うまくすればリピーター確保でがっぽり」
「ひでぇ……でも、うまいな。
 それで元手を増やして、足を……そういや竜っていくらなんだろう?」
「騎竜は金貨300枚辺りからですね」
「高いんだか安いんだかわかんないぞ、いくつか前に行った世界で奴隷が金貨数十枚だっけ?」
「まあ、気にしてもしょうがないよそういう文化なんだし」



「さて、剣の値段ってーと?」

 司が某土産屋のようないかついディスプレイというか、木箱に片手剣突っ込んである店を覗いていると「うぉ、8銀貨から小剣売ってるとか」「更に手斧は安いな……3銀貨とか」と、妙に楽しくなってきたが、自重してとりあえず両刃のダガーと手斧、鉈に小剣を買ってみた。 町外れに行って、その辺に落ちている木切れを相手に切りつけてみる。 感触としては割りと頑丈、でも切れないというものだった。

「やっぱし身が厚いから頑丈だけど、あんまり刃が付いてるって感じじゃないね」
「曲刀もありましたが?」
「他所に持っていくとき、あんまり使われなさそうだしさ」
「それもそうですね」
「じゃあ、刃をつけてみようか」
「どうやんの?」
「まず、金貨とクレス貨で作ったインゴットで刃を砥ぎまーす。
 そして、刃が立ったら、クレス貨に魔力通しながら、刃に沿って滑らせまーす。
 ハイ出来上がり」
「めっちゃインスタント。 それって
by katuragi_k | 2008-01-24 23:09 | SSもどき

希少金属ゲットのたび

 希少金属ゲットのたび

 なかなか慣れない転移酔いが収まって、司はゲートからひょいと外の様子を見た。 そこには元の世界ではありえないくらいに澄んだ青い空があり、それはもう、思わず「うわぁ、そら高ぇ、そら青ぇ、何か凄ぇ」なんて叫び声をあげてしまうほどに。 そんな様子の司をアリステアとエセルドレーダは地上に降りる準備をしながら面白そうに眺めていた。 二人にしてみれば、人が住める環境ならば、空の色や海の色に差は無いという事は常識だが、それでも垣間見える空の青さは見事なものだった。

「ん? なんだありゃ?」

 高所が苦手なのも忘れて絶景を堪能していた司が、青い空にポツンと黒い芥子粒ほどの何かを見つけた。 それは刻一刻と大きさを増し、視界一杯の青い空の三割ほどを占めた頃、司が大声を上げた。

「ど、ドラゴンだー!!!!!」

 魂消るほどの司の声に、地上への移動の準備をしていたアリステアとエセルドレーダが慌てて防御と姿隠しを編み上げた。 それらは見事に効果を表し、ドラゴンとその乗り手(よく見ると人が乗っていた)にゲートの存在は気づかれなかった。
 ただし、その彼らの進路上からゲートは外れることは出来ず……ものの見事にゲートはドラゴンに吹っ飛ばされたのだった。


 数日後


「ねえ、お姉さん。 その巻き布見せてよ」

 司が町で装飾品を扱っているらしい出店の丸々とした福福しい元お姉さんに、ふと気になった巻き布を見せてくれるように声を掛けた。 お姉さん云々はいつもの癖だったが「もう、お客さん。 お姉さんだなんて、こんなおばさんを喜ばせてどうしようってんだい」と、そう悪い気はしていないらしく、フラグはともかく好感度は上がったらしかった。 思わぬ効果にちょっと引きつつも司は「いやいや、まだまだいけるよお姉さん」と追加攻撃を仕掛けつつ品物を指差した。

「もう、巻き布ってこれかい? 
 そうさね、この巻き布より、こっちなんてどうだい?
 少しお高くなるけど物は数段良いよ。
 表立っては出してない代物だからね」

 流石に勧めてくるだけはあって、先に司が示したものと似ていながら、細工の細かさや織り込んだ色数に数段差があるものだった。

「これ、見ただけで良いもんだと感じるけど、なんで表に出してないの?」
「いや、注文が流れてどうしようかと思ってた奴でねえ。
 高く売るのも安くするのも気に喰わなくてどうしようかと思ってた代物さね。
 坊やが最初に聞いてたのも同じ職人が織ったもんでね、そっちを気に入ってくれたんならちょうどいいかと思ってね」
「へえ、じゃあ折角だしそっちを貰っちゃおうかな。 ついでにその巻き布にあう飾り紐も見繕ってよ」
「はいはい、どうもありがとうね。
 お代は4銀貨と7銅貨に4クレス貨ってとこだけど、4銀貨と5銅貨で良いよ」
「いやいや、そんなの悪いよ。
 でも、せっかくだから、5銀貨でお釣りをクレス貨で30枚ほど貰える?
 ちょいとたくさん泉の女神様に願掛けでもして来ようかと思うんだ」
「かまわないけど、お願い事をあんまり欲張ると罰が当たるよ」
「女神様のバチなら大歓迎さ」

 そんなやり取りを、呆れ顔で見ているエセルドレーダが「すっかり、こっちに馴染んでますね……」と、ポツリこぼした。

 日の強さにもかかわらず、まったく焼ける様子の無い白い肌のエセルドレーダのその言葉を、赤焼けして痛そうな顔の司が聞きとがめて、大きく笑った。

「あははははは、まあ言葉が通じるからね。
 それに、ここってよそ者にもおおらかだし。
 少々変なやつでもさ、小金持ってて愛嬌良くしてれば嫌われる方がおかしいよ。
 更に美人だったりすればさ」

 司は通りの反対側でギャラリーを引き連れて値切りの鬼と化しているアリステアを指差した。

「いやー、買い物楽しいねえ」

 どちらかというと大阪のおばちゃん状態で値切るのを楽しんでいたアリステアが帰ってくると、3人は軽食を出してくれる店でワインなど頼みつつ収穫やらを話す事にした。

「そっちは良い物買えた?」
「小銭だらけになったけどね……一応、泉の女神様にお願いもしといたけど」
「何を?」
「無事に帰れますようにって」
「大丈夫だよ。 ボクとエセルが居るんだよ。
 司はどーんと気楽にしてれば良いんだって!!」

 立派な胸を揺らしつつアリステアがそう言い放ち、「現状あんまり安心できないけど」と即座に司に突っ込まれた。

「あははははは」

 司のじと目に、アリステアの視線が泳いでいた。

「さーて、そろそろ食っちゃ寝も終わりにしないとだけど」
「ああ、酒場のメニュー制覇したもんね」
「うるさいよっ。
 エセル、この可愛くない子にこの一週間遊んでた訳じゃないことを教えてやって!!」
「確かに、私は遊んでいませんでした」
「そうだね」
「……」

 沈黙がしばし。

「調べたことですが……まず、この世界でクレスと呼ばれる金属ですが、およそ知られているミスリル、アダマンタイト、オリハルコンなどと呼ばれる物と似た性質を示し、更に加工しやすいという特徴があります。 凡そ400度で融解、腐食せず、伸び、曲がり、さらに比重はかなり軽い部類でしょう。 それゆえに硬貨や生活用品に使われているのですが、一番特徴的な性質として他の金属と混じらないということでしょう。 溶かそうが何をしようが、通常の作業ではクレス同士でなければ溶け合う事は有りません。 まあ、細工はしやすいので象嵌にされる事は有るようですが」
「へえ、合金には出来ないんだ」

 司がクレス貨を手の中でチャラリと転がし、その青みがかった金属の色をためつすがめつ。

「魔力を使った精錬を行えば可能ですが、この世界ではそちら方面の技術は用いられていないようです」
「魔法はあるんだ……でも、マナはうちの世界並みに薄いけど?」
「この世界での魔術は司の世界と同様に自らの魔力に頼らなければなりませんので、ほぼ成り立ちませんが、例外として竜が居ます。
 竜の存在自体が大きな魔力を持っているために、ある種の契約を持って契約者に魔力を貸し与えることが出来るそうです。
 つまり、この世界での魔法というものは竜自体による魔術行使と竜と契約した者が行うものであるといえます」
「へえ」
「そして、竜の契約は殆どが戦士階級の者へ与えられるため、魔術の研究などといった事は行われていないようです。 調べた限りですが、存在する魔術は身体強化系と竜の権能を模した破壊系に限られています」
「あくまで武器のひとつか……」
「その竜ですが、大きく三種に分かれます。
 一般でも使われている騎竜。 小柄で陸生の翼を持たないものから、翼長5mほどのものまでが含まれます。 基本的に魔力は持たない存在で、乗り手を選ぶことも無い為、辺境の警備や偵察、通信使に使われています」
「たまに町の上とか飛んでるやつだよね」
「そうです。
 その騎竜と一線を画す存在が戦竜です。
 約15mから25mほどの竜で、この世界での戦いの中核をなす存在です。
 はっきりと意思を持ち、魔力を行使する事が出来、契約者以外を乗り手に選ぶことはありません。 ついでに言うと、われわれのゲートを弾き飛ばしてくれた竜はこの土地の領主であるウィゲルワイア卿の契約する黒竜のようです」

 珍しく不機嫌さを表情に出したエセルドレーダに軽くビビる司。

「な、何で判るの?」
「黒竜は数が少ないそうで、この辺りでは黒い戦竜といえば間違いないそうです」
「お、落ち着いて。 で、もうひとつは?」
「最後の一つは古竜、魔竜と呼ばれる存在で……50mだとか100mだとか言われているそうですが」
「が?」

 司がごくりと唾を飲み込んで言葉を待つ。

「契約はおろか、見た者すらこの数百年居ないそうです」
「なんだそりゃ!! でも、ちょっと見てみたかったな」
「はいはい、エセル先生のお話も終わったところで、これからどうするかだけど」

 パンパンと手を叩くアリステア。

「まず、ゲートの反応だけどね、ここから北へ約3000キロ以上の彼方と判りましたー」

 すごいねーとはしゃぐアリステアを射抜く二人の冷たい視線。

「ごめんなさい。
 でね、この辺りはミカタって言う国のセンバってとこらしいんだけど。
 ミカタって国は成り立ちが小規模な都市国家どうしの商売から始まったらしくてさ、関所で持ち物によって関税取る以外は商人も巡礼も殆どほったらかしなんだよね。だからこの国の中で移動する分には良いんだけどさ、この国って東西に細長いんだよね……ゲートははるかーに北」

 「わかりにくいから地図書くねー」とアリステアがテーブルに水滴で横に長い長方形を書いた。

「まず、赤道のちょい上くらいからどでーんと大陸があんだけど、その一番南の海岸線をずるーっと西まで伸ばした感じで繋がってるのが『カ・ミカタ通商圏連合国』
 その上に山脈があって、その向こう側の大陸西部から中央部をでっかく占めてるのが通称帝国といわれてる『大イル・ガミル帝国』
 東の海岸線から三分の一くらいを占めてるのが『エディメル王国』
 北の端にちょろっとあるのが『ベスベル神聖教国』
 ここまでは良いかな?」

 いつの間にかメガネかけて中指でツイと位置を直したりしつつアリステア。 ウンウンと頷く司に言葉を続ける。

「で、ゲートの有るのは王国と帝国の国境近辺でしかも神国にも近い小競り合い多発地帯……ぶっちゃけると近づくの大変です……一番マシそうなのが王国から近づく線だけど、今のとこ帝国に押されてて、行きたい場所が帝国領になってるんだよねー」

 どうしよっかー? と、乾いた笑いのアリステア。

「とりあえず現地に行ってみるとかいっても、動物さんだよりで3000キロってねえ。
 転移使えりゃなあ」
「駄目、無理。 現状転移の途中で引っかかってる見たいなもんだから、基点の設定が出来ない。
 つまりはこっちの世界に来てる間は転移無理だから」
「しょうがないな……どっかの商隊に潜り込む?
 それか自前で商売やるとか?
 面倒だけど、インチキかませばぶっちゃけ関税無視できるし」
「とりあえず顔を売るのも悪くは無いかと思います」
by katuragi_k | 2008-01-21 23:18 | SSもどき

(3)

「うわ冥途格闘家?」
「うわって……別にいいじゃないですか。 てか、何故そう変換しますか」
「変換って何のこと? まあ、好きな物は好きでいいから、隠すのは格好悪いよ」
「べ、べつに隠してるわけじゃないですけど……ええ、メイド好きですよ。 二次元三次元問わず」
「開き直るのもどうかと思うけどね」
「ぐはぁ」

 こっそりメイドキャラやらナースキャラの立ち回る3D格闘ゲーを片付けていると、背後からアリステアさんに声をかけられた。 割と呆れられた風の声にカチンと来て開き直ったら、窘められてしまった。

「まあ、ボクとしては、アラビアンナイト風味の綺麗で賢い女奴隷のモルジアナみたいなのが好みだけど」
「てーと、アリババの召使で、壷に隠れてた盗賊を油で大量に揚げちゃった人ですか?
 映画とかだと、まんま白人の女優さんがやってたりするんでイメージ沸かないんですが……」

 見たやつだと、アリババとくっつくヒロインだったり……文庫本で読むとアリババの息子とくっついてた。

「あの辺の子は良いよー、褐色黒髪ブルーアイズ……うふふふふふ。
 それと、召使いダメ、女・奴・隷、なんかもー字面見るだけでドキドキしない?」
「アリステアさんの壊れ方見てるだけでドキドキします、お願いですからヨダレ垂らすのやめましょうね」

 なんだか、ヤバイ妄想に浸っているお姉さんのヨダレを布巾で拭いて、正気に戻す。

「よし、奴隷を買いに行こう!!」
「いきなり何ヤバイ事を叫んでるんですか!!」

――すぱーん

「いったいなあもう!!」

 突然のお姉さんの盛り上がりについていけず、思わず平手で頭ひっぱたいて突っ込みを入れてしまったが、俺は悪くない筈だ。

「正気になって下さいよ。 大体、どこで奴隷なんか買えるってんですか。
 今時、人権無視の人身売買なんて流行りませんよ」
「いやいや、意外とやってる連中は居ると思うよ……嫌な話だけどさ。
 まあ、この世界でそんなのと関わるのは命が危ないし、先立つ物も無いわけだしね。
 でもさ、そういうのが普通に買える世界に行けば良いんじゃないかと思うわけさ」
「げ、まさか」
「そのまさかさ。
 いい機会だし、キミもトリップ物の主人公になって見ようよ」

 問答無用だった。

「さあ、エス。 近隣の世界でアラビアンナイトっぽくて、魔術が幅を利かせてる奴隷制度の残ってるところを検索ー♪」

 アリステアさんの声に子犬>変身>黒ドレス、スレンダー美女なアバン流してレディ・エセルドレーダ登場。 俺のPCから伸びるLANケーブルをルーターから外して口にくわえると、カタカタとキーボードを操作する。 はたで見てると、ただのエクスプローラーが起動しているわけですが……一体どこに接続されているんでしょうか!!

「有りました。 アラビアン・ナイトっぽさの一致度数89%、貨幣はありますが物々交換が主流で、お勧めは紅茶・コーヒー・チョコレート等でしょう。 なお、なぜか香辛料の文化が無いので、持ち込んでみるのも良いかとは思います」
「なんか、味気ない料理が幅を利かせてそうなアラビアン・ナイトだね……」
「文句言わないの。 さあ、キミは売り物を準備するんだ!!
 ボクは移動の準備をするからね!!」
「行くのは確定なんですね」
「褐色黒髪ベリーダンスな女の子、きゃーー♪」
「ダメだこりゃ」

 アリステアさんは逝っちゃってるので、とりあえず買い物に行くことにする……でも、女の子なんか買って来てどうするつもりなんだろうか。

「買い物ですか、私も手伝いましょう」

 エセルドレーダさんは、子犬に戻って俺の懐にいそいそともぐりこむ。 会話は頭の中で出来るので問題は無いが、荷物持ったりは全部俺なのね。

「まずは、チョコレートですかね」
「日本の製品じゃなくて、輸入品の油脂の入っていない調理用のブロックが良いでしょうね」
「なるほど、となると輸入雑貨とかのお店の方が良いかね」
「でしょうね」

 一応、あてはある。 バイト先の店の付き合いの有る問屋さん。 ブロックのチョコ、挽いたコーヒー、葉の紅茶、後は適当に酒とか買っていくことにしよう。

「って、金は俺が出すのね……」

(4)
by katuragi_k | 2008-01-05 22:17 | SSもどき