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幻想入り2A

 時間は少し戻る。
 森の出現地点上空。
 年若い女が一人、宙に背を預け、たゆたっていた。

「つまらない……面倒ねぇ」

 ブツブツとぼやきながら月を眺め、濁り臭う大気に鼻を鳴らす。

「また、濁ってる。
 こんな田舎でこれじゃ、外もそろそろ終わりかしらね。
 案外、最近の外来人の紛れ込みも、この世界から逃げ出そうとする人の本能。
 沈む船から逃げ出す鼠ってやつかしら」

 傘を一振り、宙を割る。

「どう思う? 藍」

 その裂け目から姿を現した女が、その問いにふむと目を瞑り、しばらくして目を開き答えた。

「面白い説です……が、むしろ人がというよりは、幻想郷の存在自体が、
 崩れかけのバランスを取る為に、外来人を招きいれていると私は考えます」

 大真面目に答える連れに対して「硬いわねぇ」と呟く女。
 人には不可知の知性と狂気を気だるさに溺れさせる、スキマ妖怪こと『八雲 紫』
 そして、その傍らに控えるのが、その式たる『八雲 藍』

「そうね、こちらが崩れてあちらが無傷、
 という訳にもいかないものねぇ。
 ああ、本当にめんどう」

 私って不幸よねぇ。 とか呟きながら、紫が下界を見渡す。
 そして、ふと森の一角に気を止めた。

「紫様? 何か?」

 紫の様子に藍が心配げに声をかけた。
 心配の8割はなかなか仕事が終わらない事について。

「紫様?」

 森の一角に目を止めたまま動かない紫に、藍の紫への心配が4割程度にまで膨らんだ頃、再びの問い。
 そのとき、紫の可憐な口元が、嫌らしくニターリと曲線を描いた。
 藍は、「橙、今日は遅くなりそうだ」と呟き、紫への心配を、紫に遊ばれる誰かへの心配に差し替えた。
 紫はそんな式の思いを知ってか知らずか、ニヤケ面にカリスマを乗せなおすと、何かを懐かしむように目を細めた。

「十年ひとむかし。
 私にとってはあっという間の時間。
 だけど、人にとっては結構な時間なのね」

 藍にとって、紫は量りかねるのが常。
 その言葉の意味はあまり気に留めず、主の見る先を眺めてみた。

「ルーミア? あんな輩まで、こちらに?」

 そして藍の戸惑いは、それと戦う人間の姿を認めて、さらに加速した。
 それは弾幕というには泥臭く稚拙、対等な勝負ではなく、食うものと逃げるものの争い。
 それでも、あの姿の者に対して、外の人間が対する反応ではなかった。
 外の人間なら、ルーミアのあの外見に騙され、何もできず捕って喰われるのが関の山。
 それを、敵と認識し、戦うとは。

「あの人間、ルーミアを……いや、人外の存在を知っている?」

 眺めるうち、人間もか弱くとも人外の力を持ち、それを振るう事に気づき、先の主の言葉を振り返る。

「紫様は……あの人間を?」

 紫は、藍の言葉に「やっとそこまで辿り着いた?」と意地悪げな微笑を浮かべた。

「ええ、よく知っているわ。
 今の気持ち、これを貴女にどう伝えれば良いでしょうね。
 そう、戯れに散らした蒲公英の種が、忘れた頃一面に花を咲かせていた……そんな感じかしら?」

 そうこうしている内、下界では決着が付きつつあった。



   「記憶をうしなぇええええ!!!」

   「ちぃっ」


 そして拳銃の暴発。
 そのイレギュラーに、ルーミアが集めに集めた闇の塊が制御を失い暴発。
 そしてダブルノックダウン。

「……締まらないわねえ」
「……」

 なんとも締まらない終わり方に呆れる二人。
 そして紫は藍へ向き直り、綻ぶような笑顔をひとつ。
 対する藍は溜息ひとつ。

「藍、お願いがあるの」

 紫は手を胸の前でぽんと合わせて、小首をこくり。
 藍はその主の様子に、止めるだけ無駄なのだろうとあきらめた様子。

「判りました……私で出来るところまでは進めておきます。
 ですが、夜明けまではそう時間はありません。
 お急ぎを」
「出来の良い式を持てて私は幸せよ」

 紫は破顔一笑、宙を裂いて、隙間にするりと飛び込んだ。
 藍は、あの笑顔はずるいと思いつつ、境界の区切りを済ませる為、飛び立った。
by katuragi_k | 2008-04-06 21:45 | SSもどき
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