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なにか

「ふう、なんだかな……」

司は足取り重く、トボトボと夕暮れの家路を辿っていた。

「ひどいよなぁ、バイトから2年がんばったら正社員にしてやるとか言ってたのに、いきなり潰れたから明日から来なくていいよとか……しかも給料日の前日まで隠してるとか、酷いよな」

 司の働いていたのはホテルや飲食店に清掃者の派遣を行っていた会社だった。 割と大手の人材派遣会社の下請けを行っていて、それなりに仕事も順調だった。 しかし、ここ最近の人材派遣業界の裏側がマスコミに報じられ、世論に押されて国やら行政が指導に動き出してからは先行きにかげりが見え始めていた。 結局、司の働いていた会社の元受も例に漏れず、色々と不祥事が明るみに出てしまい、司の勤めていた会社は尻尾きりというか、業界再編のあおりをうけて沈没した。 司は同僚・先輩ともども幾らかの金だけ貰うも、吹っ飛んだ給与と当てにしていたボーナスの穴をどうしたものかと途方にくれる事になった。 保険の適用があるだろう正社員ならまだしも、アルバイトの身分の司にどこまでの補償がされるのやら。 行方知れずの社長に変わり、人事のお姉さんが色々と司達の為に必要手続きの仕方やら書類の申請やらをまとめてくれたが、今の司はそれらを読む気にはならなかった。

「あーあ、僕も先輩たちとカラオケにでも行きゃ良かったかなあ……明日からは早起きしなくていいんだしなぁ。 とりあえず銀行に行って貯金おろして、新しいバイト探さないとなあ」

 そんな事を考えていた帰り道の途中、司はいつものコンビニで、お茶のペットボトルと晩御飯の材料を買い込んだ。 そこでふと、何を思ったか今まで飲んだ事の無い、紙パックのワインなんぞをなぜか買い物に混ぜていた。 司はまだ20にはなっていないから、確認を求められれば拙い事になるのだが、その時は投げやりな気分で気にしていなかった。 レジに並んで次に順番が回ってくるところで少しづつ正気に返っていたが、やはりいつもと違う気分でそのままで籠をレジに置いた。 結局、司がふけているのか、コンビニの店員が適当だったのか確認される事なく司はコンビニを出る事になったが。

「そんなに僕はふけて見えるのか……」

 呟きながら、司はムシャクシャして少しばかり悪い事でもしてやろうとしたものの、何事もなくスルーされてホッとした自分と、そんな小物さ加減に凹んだ自分を感じていた。 そして頭で色々と考えていても、足は何時の間にか、いつも通りに商店街の辺りを過ぎていた。 照明の並ぶアーケードから、明かりが少し寂しい細い脇道へ。 するといつもは人通りなど無い道に、電信柱の所でうずくまっている人影とそれを介抱しているらしい人影が見えた。

「あれ? どうしたんだ? 酔っ払いか? もしかするとあの人も何かあった口かな?」

 司は蹲っている酔っ払いらしき人影に少し親近感が沸いた。 ついで仲間の見つかったレベルの低い喜び、多少は立ち直っている自分と比べての余り意味の無い優越感、そんなコトを感じている自分への自己嫌悪なぞが湧き上がる。 そのせいか、司の中であの人に手を貸さないと……そんな気分になっていた。

「あの、大丈夫ですか?」

 司が声を掛ける距離になって、蹲っている人物と介抱している人物が近くの家の明かりで判別できた。 蹲っている人物はパンツルックというか、スーツ姿でご機嫌にひっくり返っている。 どうやら、司の同類というわけではなく、単に気分が良くて深酒が過ぎたようだった。 そして介抱している人物はノースリーブのワンピースというよりはドレスという感じの装い。 驚いた事に二人ともが女性だった。

「あ、キミキミ、お酒もってないかな? なんでもいーよー、おさけちょーだい」

 蹲っていた人物が、司に気づいて明るく声を掛けてきた。 少々ハスキーなものの愛嬌のある声だった。

「駄目です。 アリステア、少しは大人しくして下さい」
「もーエスは硬いんだから、だーいじょうぶだって。 今日は記念日。 だからいーのっ」

 介抱していた方の女性が冷たいクールボイスではしゃぐ女性を止めようとしていたが、どうやら遠慮があるのか、あまり強く出られず押し切られているようだった。 司はそのやり取りにほほえましさを感じ、それによって、なんとなく気分が軽くなっている自分を単純なもんだと感じていた。 司はもう自分には酒は必要ないかなと思い、コンビニ袋の中から安ワインを取り出して声を掛けてきた人物に近寄った。

「こんなもんしかないですけど、良ければ差し上げますよ」
「きゃー、素敵。  うーん、キミはいい人だよー♪」

 司の差し出したワインの紙パックを見るや否や、今まで蹲っていたのが嘘のような勢いで、スーツ姿の女性が立ち上がり司に抱きついた。 アルコールの臭いに混じる甘い香りが司に届く。 司の胸元にスーツ姿の人物の感触が押し付けられている。

「ちょ、ちょっとやめてください。 駄目ですって。 ほ、ほら、僕汗臭いですよ!!」
「うーん、そうでもないよ。 んっ、なかなかいい体してる」

 抱きついたまま、片手でワインをつかみ、片手で司の背中や腰を手で撫で回す女性。 その感触に司はパニックになっていた。 高校は共学とは名ばかりの工業高校、その後はすぐに一人暮らしでバイトに励んでおり、あまりというかほとんどというか、とにかくこんな女性とのスキンシップに対する経験値は司には無かった。 パニックの中、傍らに立つ女性と目が合い、司は救いを求めた。 その間にも抱きついた女性は司の顔にフレンチキスの雨を降らせている。

「ワーインだワインーだー、ほーらワーインー♪」

 スーツの女性が更に調子に乗り、陽気な調子で変な歌を歌いだす段になって、傍らに立つドレス姿の女性も堪忍袋の緒が切れたようだった。

「いい加減にしなさい!!」

 ぺちーんと言う音が路地に響いた。 酔っ払いの後ろ頭をドレス姿の女性が平手でひっぱたいた音だった。 その音に、司と司に抱きついていたひっぱたかれた当人がびっくりした顔でしばらく固まった。




「キミ、悪かったね」
「本当に申し訳ありません」

 女性二人が司にぺこりと頭を下げていた。 酔っ払っていた女性も時間が経って酔いが抜けたようで、頭をかきながら「いやいや、恥ずかしい所を見せてしまった」とこぼしている。
 その時、ちょうど月が雲から出て、辺りを白い光で照らした。 司は月光に照らされた二人の女性の姿を見て息をのんだ。 今まで、近くの家からのぼんやりとした灯りや声の雰囲気で、まあ美人なんだろうなと思ってはいた司だったが、二人は司の思った上を行っていた。 闇に溶けるような黒い髪と衣装、くっきりと浮き上がる白い肌、その中で鮮やかに映える真っ赤な唇。 タイプは違うが共通項のある美貌が其処にはあった。

「おーい、大丈夫かい? キミ」

 まじまじと二人を見詰めていた司にスーツの女性が声を掛けた。

「あっ!? す、すいません、ぶしつけに見つめちゃったりして」
「もしかして、ボクらがあんまり美人だったからとか?」
「あ、はい……って、いやその!?」

 言ってから司が正気に返ると、その様子を見た二人の女性は見つめ合って一瞬噴出し、再び司に向き合って話しかけてきた。

「キミ、一々反応が可愛いね。 言われた事ないかい?」
「か、可愛い?」

 司にとって、自分とは程遠い言葉に一瞬、意味がつかめなかった。

「うん、可愛いねえ。 キミみたいな男の子は僕の好みだよ」
「ちょ、からかわないでください」
「アリステアの言う、『可愛い』という形容は男性の方に対して相応しい言葉ではないと思いますが、見つめられても不快ではないという意味の褒め言葉と受け取っていただけたらと思います」
「は、はぁ」

 司は、あまり褒められた気はしなかったが、さりとてからかわれている風でもないと感じ、
by katuragi_k | 2007-11-23 22:50 | SSもどき
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