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一哉くんのお仕事(悪魔憑き)

ちょっと前の焼き直し。



「え? あれ? これって?」

 送られてきた小包の中身を空けて絶句する。
 中身は綿に包まれた黒い石が数点。
 正体は黒曜石で間違いないが……。

「矢じり?」

 品物はとりあえず大きさがあればよくて、細工はこちらでするつもりだった。
 だから鉱石サンプルの通販なんてものにチャレンジしてみたのだけど……。

「これってどう見ても矢じりだよな」

 細い菱形の下方を細く伸ばしたような棒状で5センチほどの長さ。
 菱形の二辺を打ちけがいて鋭い刃にしてあり、残りの二辺から細く延びている部分はおそらく矢軸に挟み込むのだろう。
 石の表面は無骨なエッジの連なりで鈍く光を反射している。
 なんとも手で打ちけがいてつくった物だろうに、レザーソーの刃のような印象がある。
 そして同じものは一つもないのに、全てが同じモノとして存在を主張している。
 それは「殺すモノ」としての存在。
 にじみ出る感覚はちょっと把握できないくらいの年月を返してくるけど、ただ古いだけじゃなくて間違いなく実際に使われた物なんだろう。
 しかし、こんなものが届くなんて……送り間違いか何かなんだろうか?
 小包の宛名を見ると間違いないようなのだが……うーむ

「確かにものすごーく都合のいい品物なんだけど、使っちゃっていいのかなあ?
 もし使った後で返せとか言われたら危ないものになっちゃってるだろうしなぁ。
 下手に返して『呪いの矢じりでなぞの失踪!?』とかな事件の原因になっちゃいそうで怖いな。
 そもそも、なんかヤバゲな感じがするやつに、呪詛の付加なんてそれだけで怖いぞ」

 最近取った餓鬼を材料に、ちょっとした物を作ろうと思い立っていろいろ考えてみたものの、今ひとつピンとこなくて相談したら、

――回想中

「呪詛の類は石に封じてやるのがストレートでスマートだと思うのだがいかがかな?
 石の扱いは私が見てあげられるさ。
 なに、宝石でなければと言う事はない。
 そうだね、黒曜石なんてのはどうだろうね? 意外と面白いと思うが」

 某伯爵から珍しく真面目な答えが返ってきた。

「ボクも面白いとおもうねえ。
 カズヤもたまには後ろ暗いものに手を染めてもいいと思うよぉー♪」

 アリスねえは面白ければいいのか。

「俺は薬以外の錬金は良く判らんし、交霊はともかく呪詛だのはもっと判らん」

 ジョゼさんは専門以外は手を出さないのは良いけど、オレオレ言うのやめてほしい。
 見た目が絶世可憐なんだから……。

「それからジョセフィーヌだ!! まけてジョセフィン。
 ジョゼいうな!! ジョゼもジョゼ山もジョセフ犬も全部禁止だ!!」

 名前で女性にこだわるんなら言動もこだわろうよ。
 あと頭の中のぞくのやめてほしい。 ついでにその辺のネタはどこからひらってきたかなと小一時間。

「お前の頭の中だ!!」

 そうですか。

――回想完了

 ってなやり取りがあって、まあ一度チャレンジしてみましょうかって事になったわけですよ。
 で、まず材料をってことでどっか近所に落ちてないかと思ったんだけど、中々無い。
 川原でコマイのは見かけたんだけど、材料にするほどじゃないし混ざってるし。
 困ってインターネットで調べてたら鉱物サンプルってのがありましてね、ちょうど良いかなーと思って通販頼んでみたら、冒頭の様子になったわけです。

「そんなに心配なら送り主に連絡してみればいいだろ」

 なるほどもっともな意見です。
 姿を現したジョセフィン嬢が、ぶっきらぼうに小包の伝票を突き出してくるのを受け取ると、送り先の下に連絡先が書いてあった。

「どうぞ、一哉」

 エスさんが電話の子機を持ってきてくれた……どうやら二人は暇に明かせて僕の観察をしていたらしい。
 あんまり気にしてもしょうがないので、連絡先の番号をプッシュする。

「えーと? ゼロイチニーゼロノイシヤイシヤ……安易な」

 呼び出し音が2回鳴り、一度つながったと思ったら「只今担当におつなぎしております♪」と転送された。 さらに呼び出しが2回、3回……もしかして長くなるか?と思ったところで「おつなぎします」と唐突な言葉。
 そこから電子音じゃない男性の声が上機嫌に「ハイこちら『いしやドン』でございます♪」と来た。

 そこで初めて、僕はその通販先の名前を知った。
by katuragi_k | 2006-06-13 19:03 | FAKE
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