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一哉くんの店

アイテム妄想の類の話



「あっとにっふん♪ あっとにっふん♪」

 湯を注いだ円盤焼きそばを眺めつつ、キッチンタイマーを手にテーブルの周りをぐるぐる回る。
 休日の平和なひととき。
 昼まで寝過ごして、いそいそと台所でインスタントな昼食を準備する自堕落。
 ああ、なんて平和なんだろう。

――ぴぴぴぴ ぴぴぴぴ

「できーあーがりー」

 テーブルからそっと円盤焼きそばを掲げもち、台所で湯切りー……しようとしたら、玄関が爆発した。 無論、マジモノの爆発ではない。
 だがその余りにけたたましい轟音と衝撃、そして開いちゃいけない方向に開いたドアはまさに爆発と言って過言ではあるまい。
 ともかく、あまりの事に呆気に取られた手の内からは、麺がだばだばと零れ落ちていた畜生!!



――十分後。

 何とか立ち直ったものの、あまりの出来事に自分の不幸を呪うやら悲しいやら。
 僕が何をしたというのか?
 円盤焼きそばの湯を捨てて、今まさに始まろうとしていた平穏なランチタイムから急転直下、今はまるでどこぞの自己啓発セミナーのコキオロシタイムのようなギスギスした空気の中に居る。
 何でこんな切ない眼にあわねばならんのか? 原因はしごく明快、目の前にあくまが居るからだよ!! 真っ赤なプレッシャーを部屋一面に溢れさせてな!! ド畜生!!



――クレーム対応(あかいあくま編)――



「これはどういう事か、説明して貰えるかしら?」

 玄関を蹴り開けて突如登場した闖入者は、挨拶もソコソコにそんな事を仰った。
 こめかみに#マーク浮かべ、テーブル越しにズイッと身を乗り出し、右手に持った装飾過多のダガーをテーブルに叩き付けて「さあ答えなさい、返答次第では(コロシマ)やっちまうぞ」といった感じの引きつった笑みを浮かべている。

「ちょ、ちょっと落ち着いてください」

 何とか頭を回す。 意味も判らずブッチKILLられても困る。
 まずこの赤いきつ……いやいや、この女性というよりは、このクソガ、いやいや、同年代か少し下のこの女の子は誰だ?

――ぽくぽくぽく……ちーん。

 確か、術家の当代でどっかの管理者だとかな人だよな?
 うんうん、ついこないだうちでなんか買ってったような?
 おう、そうそう。 確かに今持ってるあのダガーだ。
 何でも札束投げつけるような現状を何とかしたいとかで、近接でかなり派手な奴を持ってった筈。

「えーと、確か戸髙さんでしたか……何か拙いことでも?」

 結構な額の買い物で色々と交渉された覚えがある。

「戸高じゃなく遠坂よ。 
 何かじゃないわ。 いきなり焼き付くような安物、よくも寄越してくれたわね」

 ああ、そうでした遠坂さん、そうそう……って、な、なんでだってー!!

「い、いえ、品物に不備なんて事は無かった筈です。
 ちゃんと確認してますし、決してそちらに変な物を掴ませたなんて事は」

 腐ってもそれなりに金取ってるんだ、下手は打てないっての!!

「じゃあ、これはどういう事かしらね」

 遠坂嬢がダガー握り締め回路をじりっと動か……そうとしたら、ダガーの回路焼き飛んで魔力散りやがった……なんじゃそりゃ!!

「ちょちょちょっと、ちょっと見せてください!!」

 気色ばんだ僕の顔にちと引いたのか、遠坂嬢は素直に右手を開いて見せてくれた。
 受け取ったダガーをためつすがめつ……マジかよ? 鋼に焼きこんだ加工銀の回路が半田ごてこねくり回しすぎて、失敗したラジオ工作の回路みたいに焼け禿げている。 一体何をどうやったら、こんな事になるんだ?

「あの、なんか高圧の力源に繋いだりしてないですよね?」

 てか、今は目の前で焼けたんだっけか。

「なんでそんな意味の無い事をしないといけないのよ」

 すっぱりと切り落とされた。
 確かに、自前のオドないしは若干の集積マナを使って、威力を求める為の礼装な訳で……そんなでかいもんの触媒にするなら、そこらの広場に何か陣でも刻む方がマシだ。
 ぶっちゃけ、懐中電灯を100Vコンセントに繋ごうってもんだ……普通そんな奴はいない。
 ちゃんとそれに見合うもの、先のたとえなら電気スタンドなりの照明器具を準備して繋ぐわな。

「じゃあ……一体、何が」

 と、悩んでいてもしょうがない。
 受け取ったダガーの飛んでる回路部分を、ちょっとした作業するのに使っているレザーマンの鑢で削り切る。
 回路は両面にあり、片面に数組づつ並んでいる。
 普通は回路とかは最初から内面にしつらえるんだけど、うちは後付で付加価値入れてるもんで表に走らせてる。 だもんでこんな事もできるわけだ。
 さて、このダガーには弄れる余裕がかなりあったんで、属性付加の回路やらなんやらを結構な数並べてある。
 それらをバランス見ながら、無事な部分を残して削り切って行く。

「さて、なんかトンデモチョンボしてんのか? 僕が」

 ドキドキしながら手近なメモ紙を取り出して、ボールペンでチョコチョコと書き込んでいく。
 簡略すぎる程に簡単な札が完成。
 そして書き上げた札を柄に巻きつけて逆手に握る。
 テーブルに切っ先を触れさせて書き込んだ札――若干のマナを集積する儀式魔術の陣のさらにインスタント――を破り、蓄えられたマナを開放する。
 書き上げてすぐ、しかも適当に書いたものだから、恐らく計り取るにも苦労するような少量の魔力、それでも一応ダガーが起動する程度が伝わり、大本の回路が刃先に力を導く。
 そして、僕の刻んだ後付の回路がその力を属性つけて更に増幅する。

――――ジ……

 切っ先に赤いものが見えた。
 
 瞬転

――――ッ!!

 視界が白くなり、無音の威力が手にかすかな反動を返してくる。



 視界に風景が戻って来た。
 目の前のテーブルはダガーの刃先から出た力に天板が焼裂かれている。
 若干収束が乱れて幅が広く焼けているものの、今の状態なら上出来だろう……が、じゃあ、なんで遠坂さんが使うと壊れるんだ。

「……どういう事よ」

 目の前の遠坂嬢、かなり納得のいかないご様子。
 僕も納得いかない。

(……ぽそぽそ)

「あ?」

(普通壊れないものが壊れるってのはね、死ぬほど不器用かめちゃくちゃ馬鹿力って相場が決まってるのさ)

 ふと、中の人がささやいてきた。
 なるほど、そういう可能性もあるのか。
 一応、試してみますか。

「ちょいと失礼」

 そういって部屋の奥に引っ込む。
 物置さらって怪しいブツを二つ三つ。
 抱えてきた物をテーブルに置こうとして、ススだらけだったんでソファに置いた。

「すいませんが、こいつらに魔力通してみていただけます?
 力まずに、かるーくシングルアクション一発分とかな感じで」

 そういって、大粒の水晶玉を渡してみる。
 遠坂嬢、不審気にこちらを見つめつつも受け取って、左手に持って何かをブツブツ。
 何か起こるかなとじっと見ていたものの、アッサリと終了。

「これで?」

 良いの?と水晶玉放り投げてきた。
 そこそこ値のするもんなので投げないで欲しい……で、受け取ってじっと見る……げ?
 ちょっとびっくりした。
 もしかしたら間違いかもしれないので、残りの小刀と金属製のタリスマンも同様にしてもらう。


 ……作業中……


「出来たわ」

 意味がわからず、ご機嫌がかなり下降線の遠坂さんが品物をこちらに返してきた。
 じっと見る。

「ふむ、なるほど」

 ぶっちゃけた話、これらは珍しくも魔力充填式の道具な訳だが、僕にとっては――普通一般のあんまり素質に恵まれない術士の方含む――充填量が面倒なくらいにかかる――さらに長い事ほっとくと抜ける――ので、あんまり使われず、そして売れないので放り込んだままにしてあった物だ。
 どの程度かというと、そこそこの術士の人が気合い入れて自分の容量の三割~半分近く込めて一杯って感じ。(某聖杯戦争単位で5~7ポイント?)
 無論、それだけの結果は出るもので、前日から使う事が判っていて準備すれば、当日に自前の魔力を使わずにおける有利は大きい。
 ゆえに、厄介事やらギリギリな仕事を背負っちゃった人のレンタルはたまに有るのだが。
 まあ、最近は使う人も居なかったのでほったらかしで中身も2-3割残して抜けてたわけだが。
 それをこの人、事も無げに満タンにしてくれましたよ。 しかも三回。
 ラッキー儲けました……じゃなくて。
 なるほど、中の人の言う通りに才能実力諸々の桁が違うらしい。
 不器用じゃなくて馬鹿力な方向で。
 てか、この人の連打できるレベルの出力ってのは三発で術士一人前か?
 たいがい、桁の違う連中――中の人たち――見てるけど、あれはあくまで人外だからであって、普通の人間でこんなのが居るとは。
 どうにも、ギリギリのリソースをあっち振りこっち振りして、仕事をやり繰りしてるうちのお客が泣きそうだ。

「あー、色々と思う所はありますが、原因が掴めました。
 こちらの見積もりが甘かったようです。 申し訳ありません」

 微かに引きつる顔を、何とか笑わせて頭を下げる。

「それって、どういう事かしら?」

 なんとなく地が見えてきたっぽい遠坂さんが「さあ、さっさと吐け」という感じでにっこり笑った。
 思わず、「えーとですね。 自分を良く考えて買い物しやがれこのポテンシャル馬鹿!!」と言いたかったが、怖くて言えない。
 なんとか、遠まわしに言うことにする。

「まず、ちょっと良いでしょうか?」

「何かしら?」

「何でまた、うちの物なんて買おうと思われたんでしょうか?
 我ながらの事ですが、うちの商品は割と出回っているものを弄りなおした、言って見れば格の低い商品の焼き直し。
 同じ値段で求めれば他所の物より品物は悪くないと言う自負はありますが……やはり品物的にそう程度の高いものではありません。 
 大体にして、うちの品物を求められる方は自分で礼装の用意ができない程へタレだとか、素養が偏ってるとか肉体強化オンリーな人とかがどうせ礼装に回せるリソース少ないから予備の火力はアリモノで良いやーとか、表立って魔術の行使が出来ないので仕方ないからーとかな理由なんですが。
 お見受けしたところ、そちらさんはその方面に不足を感じるようには見えないんですが?」

 一気に話して返事を待つ。
 遠坂嬢は、「結構、客に酷い事を言ってるわね……そりゃ才能は不自由して無いけど懐が不自由しそうな……む、余計な事言わない。 心の税金心の税金」と口ごもったあと、「知人にね、勧められたのよ」とおっしゃった。

 おいおい誰だだそいつぁ……迷惑だ。
 チラリと思った。

「何が迷惑ですってぇえええ!!!」

「うわぁ、口に出てましたかぁ!!
 じゃなくって顔近い顔近い!!
 胸倉掴むのカンベンしてください!!
 ついでにその笑い怖いですって!!」

 どうもチラッと思った事を口走っていたらしい。
 遠坂さんの右腕一本にぐりんぐりん振り回され中。
 このまま行くと明日の朝日が拝めるんだろうか?

「ああ、誰か助けてくれ」

 この事態を何とかしてくれと、神に救いを求めたら所、

「ここは神の家ではないが、救いを求める者が伸ばした手を取るに吝かではない。
 告げたい罪があるのなら聞こうでは無いか」

 なんか違うのが来やがりましたよ。 クソッタレ!!


 
「言峰「綺礼?」神父?」

 お互いの言葉を聞きとがめて、顔を見合わせる僕と遠坂さん。
 遠坂さんは僕の胸倉を掴んでいた手を離し、僕はストンとソファに腰が落ちた。

「珍しい事もあるものだな。
 あの凛が私の勧めに従うとは。
 それにしても寄木一哉、随分と楽しそうではないか」

 クツクツと笑う男。
 玄関に佇む悠然とした体躯、軽く広げた両の手に懐の深さを感じる。
 やわらかい笑みは慈悲の徳を見て取れ、底の見えない目の光は強い意志を感じさせる。
 だのに、なぜか不吉さがぬぐえない男。
 なるほど、遠坂さんの知り合い。 この事態の元凶はこいつか。 エセ神父め。

「言峰神父、どこをどう見たら楽しげに見えるんですかね」

 不機嫌さを隠さずに神父をねめつける。

「いやいや、身内の贔屓目を省いても凛の器量は悪くない。
 それとの二人きりの逢瀬。
 中々に得がたい時間だったのではないか」

 ……ものは言いようだ。

「僕にも選ぶ権利はあると」

「何か言った?」

「いえ、何でもありません」

 遠坂さんの視線が痛い。

「で、綺礼は何を?」

「私は頼まれ物の受け取りだ」

 言峰神父はこちらを向いて、「品物が揃ったと連絡を貰ったが」と。
 僕はひとつ息を大きく吐いて立ち上がると、玄関を見ないようにして部屋の奥から細長いアタッシュを担ぎ出す。

「出来はどうかね?」

 珍しくマンウォッチング以外で楽しげな風の言峰神父に軽く怖気を感じながら、僕はアタッシュを開け並ぶ中身を見せる。

「とりあえず、こいつが一番ましですね」

 アタッシュの中にある三本のうち、一番自信のあるものを取り出す。

「ほう」「へえ」

 ひとつは興味深そうな、ひとつは感心したような声。
 視線を集めた品物は刀身60センチ程の両刃の小剣。
 身幅は割りと太く、かなりゴツイ。
 刃は引いてあるのであまり鋭い感じは受けないが、鋼の塊の鈍い光はそこそこ以上に非現実的だ。

「これって、儀礼刀じゃ無いわよね」

 先程までの不機嫌さは何処へやら。 遠坂さんが無骨なそれに興味津々。

「使えなくは無いですけど……」

 そう言って、僕は言峰神父にちらりと視線を向け、神父の軽い頷きを了解と取り、遠坂さんにどうぞと渡す。

「まあ、凛には話しても問題あるまい」

 ためつすがめつする遠坂さんに、「元はこれなんですけどね」と、奥からもう一本の剣を取ってきて見せる。
 持つだけでバランスの悪さを感じる品物。
 遠坂さんが呆れて見やるそれの名は『黒鍵』
 魔術関連の物ではなく、立派に教会の品である。

「ふーん。 預ける綺礼も綺礼だけど、受ける方も受ける方よね」

 ジトーとした視線。

「いや、面白そうだったんでつい」

 遠坂さんから剣を受け取ってケースに詰めなおし、言峰神父に渡す。

「それでは、待ち合わせがあるので失礼する」

 現れた時と同じく唐突に立ち去る神父だった。




「で、私の件はどうなるのかしら?」

 そういえば、まだ何も解決してなかったのだった。

「すいません、遠坂さんの件ですが――少々、うちの手には余るかと」

 せっかく落ち着いたところでどうかと思ったが、出来ないことは出来ないので仕方なく正直に話す。

「ふう、まあいいわ。 とはいえ、説明はして貰えるのよね」

 流石に神父に気力を持っていかれたのか、少々元気の無い遠坂さん。

「まず、先程も言いましたが、うちの品は数打ちの格の低い品をいじって値段上げてるだけのもんです。
 冗長性削って能力上げてるんで、元の物以上の耐久性はありませんし、寿命も短いです。
 無論、能力だけ見れば相当割安な筈ですが……その分、想定してるお客さまの幅は、言葉は悪いですがそれ程恵まれて無い方用です。 これは僕含めてですがね。
 なので、遠坂さんクラスの人が使うとは考えて無いんですよ。
 申し訳ないですが、御代はお返ししますので今回の話は無かった事に」

 言葉を締めて、頭を下げる。
 一秒、二秒……遠坂さんの反応を待つ。

「まあ、仕方ないわね。 自分の才能を恨むわ」

「いずれ、遠坂さんがフルオーダー礼装を作る時は勉強させていただきます」

「ま、いいけどね。
 たまたま思いついただけで、どうしてもって訳じゃなかったから。
 ちょっといろいろ考えすぎてたのよね」

 遠坂さんは右手を口元に当てながらボソボソとつぶやいている。
 それを見ながら僕は――まあ、この人なら暇さえあれば自前で何とかするか……余計なお世話だったな――等と考えていた。



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・黒鍵改
 本来は使い捨てに近い、数撃つタイプの投擲礼装な黒鍵を教会の人間以外がその秘蹟による対霊概念の威力をなんとか使えないかなーと思った誰かさんに依頼されて試作したもの。
 誰かさんは言峰さんの知り合いらしいが、それ以外に設定も何にも考えて無いので気にしてはいけない。
 材料は、戦闘で破損した黒鍵を誰かがガメタ物。
 その中でも、死者に止めをくれて折れた物が一番良かったぽい。(その最後の一撃で命拾いした部隊の面々の思い込みが概念に加算されたりしたのか?)
 因みに黒鍵の概念自体を魔術で再現やら強化やらどうのこうのとできなかった為、黒鍵をまんま埋め込んである。
 剣としてのバランスと強度を取るように肉付けした後、肉付け部に魔術を乗せやすく処理をしているだけ。
 リーチや使用法、重量などに制限があるものの、魔術を乗せれば威力だけなら数倍に上がる。
 とはいえ、何処まで行っても趣味の品でしかない。

とかなことを考えてみる。
by katuragi_k | 2006-06-05 20:26 | FAKE
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