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餓鬼取り7

暑い……。



「先生、よろしくお願いします」

 僕の言葉を聞いて、八重さんがもそもそと動き出した。
 どうやら、機嫌は悪くないらしいらしく少しホッとした。
 しばらくの間もそもそしていたが、入口辺りで場所が決まったのかこちらを見返してきた。
 どうやらそこが結界の起点らしい。
 そばまで歩いて蜘蛛に手を添え、接続経由で魔力をそろそろと送り出す。
 じわりと部屋のプレッシャーが増す。
 わざわざ僕からの魔力でやるのは、表に出るだけで多少の消耗があるのでそれ以上を避けたいのと、八重さん任せだとぶっちゃけこっちも動けなくなるくらいの結界強化になっちゃいそうだから。
 実体無しの情報体の癖に、こうやってヒョイヒョイ実体化できるくらい力を溜め込んでいる連中の加減なんて、敵対してる連中に試すならともかく、出来れば自分で味わってみたいとは思いません。
 実際、今送り出した魔力なんて、そちら方面の才能に不自由してる僕の容量のせいぜい一割弱。
 それで、本来の対象になってない筈の僕の体がかなり動きづらくなっています。 おそらく僕の分を丸々送れば、耐性の無い人なら危険な事になりそうです。 本当にどういうやり方で陣を括ればこんな風になるのやら……。

 感心ばかりしててもしょうがないですから作業を進めますか。
 もう餓鬼ごときが動き回れる状態じゃありませんから、後は場所を見つければ終わりです。

「八重さん、脱走兵はどこですか?」

 ぽんと蜘蛛の背を一なで。
 八重さんは足をせわしなく動かして糸をたぐりたぐり。
 足の動きが止まると、頭の中に抽象的な座標が帰ってきた。
 僕は慣れたのか脳に変な計算できる機能があるのか大体感覚でわかるので良いですが、なんとも説明が難しい情報です。
 まあ、判り易く描くと、起点――八重さんの居場所、入口前――からまっすぐ奥を見て、右に足2本分――蜘蛛の足は8本なので一本辺り45度らしい――回って、蜘蛛二つ分――一粒30センチ――進んでふたつ分登る……って感じでわかっていただけるだろうか?
 つまり入口から右に90度、60センチ進んで60センチ登る……おい、エライ近いな。

 じーっと考えて見る。
 考えてみる。
 八重さんを見つめてみる。
 見返す八重さんの目は、多分こちらを向いて……あり? 見てない。
 あんまり蜘蛛の表情ってのは読めないんですが、なんとなく『志村後ろ後ろー』って感じに視線が僕の背後に飛んでいる。
 いろいろな諸条件をかんがみるに、どうやら。

 ひょいと右手を上げて背中を見る……いない。
 ひょいと左手を上げて背中を見る……居た。

 どうやら、僕の腰の辺りにへばりついていたようです。
 見つからないわけです……OTL
 おまけに結界強化でぴくぴくして瀕死の状態です。
 もう少し圧力かけたらパンクして辺りが呪詛でめんどくさい事になっていたかもしれません。
 勝手に根性あると決め付けて勝手に対策講じて危なく仕事が増えるところでした。


 あんまりに情け無差に涙がちょちょ切れます。
 とりあえず30匹目を回収し、八重さんにお礼の酒を勧めるもいまいち遠慮され、結界を常の状態に戻した後、八重さんは帰って行きました。
 今晩辺り、野菜スティック山盛りでサラダ祭りでもしようと思います。


「あーあ、これがホントの一人相撲だったか……OTL」

 むやみに疲れました。
by katuragi_k | 2006-06-02 13:16 | SSもどき
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